A Journey To Surrey Quays

Half the truth and half the lie

舟を編む / 石井裕也

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石井裕也監督。中原昌也さんが珍しく日本映画を褒めていたので仕事終わりにするりと鑑賞。いやーこれ、良い! 古い日本家屋に学生時代から住んでいる馬締光也(松田龍平)の元に大家の孫娘である宮崎あおい演じる林香具矢が越してくるくだりとか、これどこのエロDVD? と思ったりしたのだけれど、話がどんどん進むにつれお世辞にも派手とは言えない辞書作りの物語にぐいぐい引き込まれてしまった。キャスト陣のトーンを抑え目の芝居にも好感が持てて特にキャラクターとキャラクターを繋ぐ役目のオダギリジョーさんがまるでボランチのように自由自在に動き回り物語が回っていた。

古い日本家屋に宮崎あおい演じる香具矢が越してくる。小林薫演じるベテラン編集者、荒木公平が辞書の仕事から外れ、光也が異動してくる。トラの代わりに家に来た新しい猫、そして、新しい編集者。古いものは外れ新しいものが入ってくる。物語はどんどんと進む。

10年以上の歳月を経て宮崎あおい松田龍平が食事をしているシーンが描かれる。少しだけ首をかたむけ口惜しそうに呟く光也。

「間に合わなかった」

誰かが何かを始め、誰かがその後を継ぐ、事ここに至って観客は、この映画が伝承の映画である事を知る。誰かから受け継いだバトンを誰かに渡す。ああ、これはとてもシンプルだけれど人生そのものだ。無駄の省かれたこの二人のシーンの佇まいがとっても良くって、そっと光也に手を添える宮崎あおいの仕草にホロリとしてしまった。秀作。