A Journey To Surrey Quays

Half the truth and half the lie

言の葉の庭 / 新海誠

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主人公の中学三年生、天沢聖司は、ヴァイオリニストになる夢を抱いている。一方、月島雫は……あ、これ違う映画だった。

 
さてさて、たいていの映画作家、アニメーション作家であるなら、主人公の高校生タカオが惹かれるユキノの人間性や魅力を書き込む為に、幾らかの工夫をするだろう。

例えば、タカオがユキノに口をつけたペットボトルを返した後、それを飲むユキノの口元に対するタカオの視線のカット、なんかを入れたりもするだろうし、ユキノの足を触るシーンにおいて、タカオの手のクローズアップなり意図的なショットの幾つかがあってもおかしくはないはずなのだが、人を描く事に重きをおいていない新海映画にそのようなカットは一切存在しない。その代わりに、主人公の内面ではなく、背景を厳密に書き込む。携帯電話、パソコン等の電子機器や駅の表示板などを実写と見紛う程に正確に描く。この点、例えば代表的なアニメーション監督の宮崎駿さんとは全く異なるアプローチをモノ作りの根本に対して据えていると言ってもいいと思う。

本作でも、自分はドラマとしては全く興味が持てず、「いや、知らなかったっていうのおかしいやん」と物語の運びに対して思わずツッコミを入れてしまったわけなのだけれど、前述したように厳密に描かれた街、緑の美しさ、雨の描写の精緻さに、もっていかれてしまいながら、ふと気がついた事があった。

例えば新宿の同じ街を同じアングルで実写として撮ったら退屈で見ていられないのではないか、という事だ。それが、”実写のようなアニメーション”として描かれると退屈どころか不思議に魅力的になってしまう。画面には雑踏や、生ゴミなど、実写なら嫌でも映りこんでしまう新宿の街の姿は一切描かれず切り抜きされた新宿の姿だけを観客は見る事が出来る。今まであれだけ新宿を綺麗に美しく緑あふれる街に描けた人はいないのではないか。

これは褒め言葉でしかないのだけれど、インディーズで1人アニメを描き続け、これだけ恥ずかしい話を臆面も無くやり続けるのはすごいなあ、と単純に思う。雨、素敵でした。次も見ます。

新宿御苑から一番近い映画館(バルト9)で鑑賞。雨ではありませんでした。