A Journey To Surrey Quays

Half the truth and half the lie

風立ちぬ / 宮崎駿

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宮崎さんは全く物語を描かなくなったなあ、と今作でも思った。場面ごとの作り込みは素晴らしく、例えば、関東大震災のシーンがあるが、ジブリの作画力で綿密に表現されていたのが、とても良かった。

主人公の堀越二郎は飛行機を作る仕事をしている。部屋にこもり図面に線をひき、デザインと機能の両方を考える。他人の事になりふり構わず、一日中、図面と格闘。もちろん飛行機は戦争に使われるものであり、二郎は軍需産業を担っているわけだけれど、夢中で仕事をする二郎の姿がアニメーターの宮崎駿、その人とダブって仕方がなかった。

色んな人の感想をちらりと見ると、選ばれしものによる大衆蔑視という見方もあるようだ。確かにそのようなシーンはあるし、主人公は恵まれた環境にいるわけだけれど、メインの話ではないのかなと思った。

この映画は戦争や震災の悲惨さを描くものでもなく(そんな事は言うまでもない)、国民的な映画作家になった宮崎駿さんにとって、もっと個人的な映画だ。宮崎さんが信じているのは地道に築きあげてきた職能。ただ、それだけではないか。社会的な出来事は起こる。周りはころころ変わるし時代も移り変わる。そんな時代を背景に、一人の男が仕事をする姿を、50年アニメーションの仕事をやってきた人間が、昔を懐かしむかのように淡々と描いていた。