A Journey To Surrey Quays

Half the truth and half the lie

ディア・ドクター/西川美和



三年半前に、ある小さな村に医師として赴任してきた伊野(笑福亭鶴瓶)は、経験豊富な看護師の大竹(余貴美子)と都会からやってきた研修医の相馬(瑛太)と共に小さな村の診療所を切り盛りしていた。村に住んでいる未亡人のかづ子(八千草薫)との出会いから伊野の過去が徐々に浮き彫りになっていく。


さすが、西川美和


伊野がいなくなった現在と、伊野がいた過去の往復で物語は進んでいく。『ゆれる』の西川美和という事で、またしても重い映画だろうという心構えで見始めたのだけれど、あっけらかんとしたシーンが前半は多いので、「あれっ」と拍子抜けしてしまう。物語が中盤にさしかかると村の上空に大きな黒雲がかかり雨が降ってくる。『ゆれる』でもあった水がゴウゴウと流れる描写が差し込まれると途端に話が動き始める。


事故で気胸になり運ばれてきた急患を前に伊野と大竹が視線を交し合う。このシーンの何とも言えず息苦しい事。外見はとても人懐っこい印象のある笑福亭鶴瓶師匠だから黙って立ち尽くしているシーンは、ちょっと不気味なんだよな。眼鏡の奥で実際は何を考えているか分からないというか……。このキャスティングはあて書きの様なドンピシャっぷり。


井川遥が好きなのだけれど元々はグラビアアイドルであり、「グラビアあがりの女優」というのが僕の中の認識だった。ただ、この映画での井川遥は今までの彼女が出てるどの映画よりも女優だった。かづ子とのやり取りの中でさめざめと泣く井川遥が、とても良かった。八千草薫とのシーンでは色々考えさせられる。家の中にいる二人を撮ったシーン。切り取られた別々の空間にいるような構図がとても寂しい。遠くの親戚より近くの他人なのか? この言葉を思い出してしまう。


冒頭、真っ暗になった道の向こう側から白衣を着て自転車にのった人影がこちらに向かって走ってくる。笑福亭鶴瓶が医師役をやるというのは見る前から知っていたので、当然、医師に扮した笑福亭鶴瓶だろうという風に僕は思った。


だが、違った。


そう、ここから既に始まっているんです。