A Journey To Surrey Quays

Half the truth and half the lie

ラストレター

所沢の知人宅でだらだらと週末は過ごしていたのだが、ふと思い立って、岩井俊二監督の新作『ラストレター』を見ることに。ユナイテッド・シネマ入間までの道中は雨が降っていた。何年か前に入間から歩いて行けるというアメリカの住宅を模した建物が並ぶ地区に赴いたことがあるなあと思いだしていた。

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入間という都内からは離れた場所のせいか客席はまばらだったが、久しぶりの岩井作品を楽しみに鑑賞。ここからネタバレで感想を書くので未見の人は読まない方が吉。出演者は敬称略。

 

 

 

冒頭、滝で遊ぶ子供たちのシーンから始まる。顔が映り込むカットが印象的で、子供たちはどうやら葬式(?)から抜け出してきているようだ。

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鑑賞前に、この映画は『Love Letter』のセルフリメイクだろうと思っていたので、この始まり方が既にとても良く似ていて、ニンマリしてしまう。その後も、画面に横溢するセルフオマージュを示唆する数々のアイテム。葬式・校舎・手紙・自転車・図書館・夏・花火・浴衣……。

過去と現在で一人二役を演じた森七菜と、同じく広瀬すずの2人のシーンでの可憐さや可愛らしさなんかも秀逸。大型犬を連れて校舎を訪れるシーンは美女2人&大型犬で岩井監督が撮りたいだけなのでは、と思えてしまう。

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森七菜の母親役を演じるのが、『四月物語』で主演を演じた松たか子で、これがすごくいい。感傷的でふとすれば彼岸にいってしまいそうな繊細な物語を、こちら側に戻す役割を、そつなくこなしていて前半部分の物語を牽引した。そして父親役にまさかの庵野秀明。『式日』で岩井監督に出演してもらった借りを返す為に出演したとのことらしく、コミカルな役柄で前半部分のアクセントに。大型犬が似合いすぎるね。

 

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福山雅治は、広瀬すず演じる未咲を題材にした1作しか書けていない一発屋の小説家、乙坂鏡史郎を演じる。乙坂は現在は、お世辞にも豪華とは言えないアパート暮らしであり、次回作のヒントを探してもがいていた。

乙坂は大学時代に交際していた未咲への想いが捨てられず、創作上の何かのヒントでもないかと、未咲が生前住んでいたアパートを訪れる。アパートに訪問すると、中から今の住人であるサカエが出てくるのだが、演じているのが、『Love Letter』でヒロインを務めた中山美穂であり、監督の過去作品への目くばせにここでもニヤリとさせられてしまう。少しすれた感じの女性であるサカエに案内された店で、未咲の死に強く関与している同居人、阿藤と乙坂は卓を囲むことになるのだが、この阿藤役を演じるのが、まさかの豊川悦司! 阿藤は筋骨隆々とした体躯で怪しげな雰囲気を醸し出しており、普通ではない男の様子だ。

 

この文章の最初に『Love Letter』のセルフリメイクかなと書いたのは、ネガティブな意味合いもあり、物語が縮小再生産になってしまう可能性を危惧していのだけれど(それなら同じネタで話を撮る必要はないわけで……)、豊川悦司中山美穂の登場により、物語の様相は変わり始める。

 

豊川悦司演じる阿藤と未咲の死について話す乙坂だったが、やさぐれた生活を送り異様な雰囲気を放つ阿藤は、未咲の死を後押ししてしまったのは確かに自分だと乙坂に言い放つ。さらに「お前は未咲に何も関与していない」と続ける。この言葉に何も言い返すことが出来ない乙坂。じっと黙り込んでしまうことしかできない。

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このシーンがとても印象的だったのだが、豊川悦司中山美穂が出演していた『Love Letter』というのは岩井俊二という作家にとってどういう作品だったかと言えば、1人の女性が残してきた未解決の過去が誤配された手紙を元に回収されていくというピュアなラブストーリーなのだ。それを踏まえて、主役二人の今作でのあまりにも変わり果てた姿を見ると、自作のセルフリメイクで縮小再生産になることを避け、過去にすがるな、という岩井監督の自分自身と観客たちに対してのメッセージにも思えて、個人的にはこの2人の起用法をポジティブな物としてとらえた。

 

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阿藤の前で、乙坂は気落ちしてしまい、店を後にするのだが、決して自分が何も未咲の人生に関与していないわけではないと後に知ることになる。後半の展開はいままでの岩井作品には少し見られない流れであり、この辺りの話には岩井監督の自伝的な部分があるのかもしれない。なぜなら岩井作品で男性が前面に出ることは少ないので。

 

脚本的には、なぜ、未咲が悲惨な最期を過ごしたのか、大学時代に乙坂と何があったのか、など説明不足の疑問や整合性がとれていない点も多々あり、この辺のもやもやが残るというのは正直なところではあるけれど、ノスタルジーで終わるだけの作品ではなく、人生は苦いことも起こりうるし、そういう時でも人間は前を向いて進んでいかなくては、というのがこの作品の真のテーマなのではと思った。

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ノスタルジーと映像美がフューチャーされる岩井作品だが、岩井監督自身が『Love Letter』を撮影した時より年月を経ており、更に監督の地元である宮城県は東北の震災の影響を受けた場所でもあり、それらの要素が物語の展開を別の領域に持ち上げたのかもしれない。 

 

岩井監督の映画っぽくないと、ファンの方からはドローン撮影に賛否があるみたいなのだけれど、映画を撮影するということは撮影された場所の記憶や記録を残し、次世代に残していくことでもある。過去を完全に忘れる必要もないし、未来は今、ここから新しくスタートすることも出来る。地に足をつけていきていきましょうということかな。ある程度、年を重ねていけばもっとしっくりくる映画なのではないだろうか。

 

映画が終わり、入間から池袋→新宿と乗り継いで箱根に帰る途中、本厚木の駅を出たあたりで窓の外を見たら、雪が降ってきていた。